第十回在宅医療勉強


すぎなみ在宅診療所で第十回在宅医療勉強会が行われました。
今回の勉強会は、肺炎の患者様の症例検討について行いました。
今回も多くの方にご参加していただきまして、ありがとうございました。次回の在宅医療勉強会も何卒、宜しくお願いいたします。

風邪と肺炎について
風邪は、鼻や喉、気管支が侵されて鼻水が出たり咳が出たりします。
一方肺炎の場合、肺が侵される病気です。風邪はウイルスが原因で起こるのに対し、肺炎の場合は、風邪のウイルスをはじめ、細菌、誤嚥などの様々な原因で起こります。

風邪の原因になるウイルスが体内で生存するのはせいぜい3日前後。仮に高熱が出たり咳、鼻水が出ても、一番ひどいピーク時は3日前後、インフルエンザウイルスでも5日前後です。 このことから、3~5日たっても咳がひどく、熱も下がらないのであれば肺炎を疑いましょう。
在宅医療勉強会の様子
在宅医療勉強会の様子

過去の在宅医療勉強会
第1回(抗がん剤治療・介護食のご案内) 第2回(ノロウィルスとノロウイルス抗原キット) 第3回(認知症について)
第4回(胃ろう(PEG)と関連商品のご紹介) 第5回(ターミナルケアと疼痛管理の症例検討) 第6回(褥瘡と糖尿病の症例検討)
第7回(QOL維持のための貧血治療) 第8回(寝たきりの患者様の症例検討・脱水症・熱中症) 第9回(パーキンソン病と症例検討)
第10回(肺炎の症例検討)    

在宅医療の症例検討(肺炎)

CASE1~長年の喫煙によるCOPD腸閉塞

肺炎による入退院を繰り返していたがADLの低下とともに通院困難となり、訪問診療開始。
季節の変わり目に咳き込み痰がらみとともに38度前後の熱発を認め、家人から往診依頼ありました。

往診開始当初は、採血し、抗生剤を静脈注射施行。解熱鎮痛剤の筋肉注射施行し、さらに内服の抗生剤を処方していた。
いつも注射した翌日には解熱し、咳や痰も治まるため、最近は注射だけして、翌日も解熱しない時のみ内服処方することにしています。

肺炎の種類
分類 病原菌 特徴
市中肺炎 細菌性肺炎 肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌など一般細菌 通常の社会生活を送っている人に見られる肺炎です。 原因は細菌性のものが最も多く、次いでマイコプラズマ、クラミジアなどによる肺炎が多く見られます。
非定型肺炎 肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌など一般細菌
院内肺炎 グラム陽性菌、グラム陰性桿菌など 一般的に入院後48~72時間以後に発症した肺炎です。
患者さんの背景や基礎疾患に対する治療などにより病原菌が大きく異なります。
嚥下(えんげ)性肺炎 口腔内常在菌(連鎖球菌、嫌気性菌、グラム陰性桿菌など) 高齢者や術後の人に多いです。
食物、胃内容物、口腔内常在菌を誤って飲み込んでしまうことにより、肺炎を誘発する可能性が高くなります。

肺炎の症状

高熱(38度以上)が続く。咳が激しい、痰が膿状になって止まらない。

痰が透明ではなく、黄色や緑色になってきた。

すぐ息が切れる・息苦しくて睡眠を妨げられる。

呼吸や脈拍が増加する。咳き込むと胸に痛みを感じる。


肺炎の診断

聴診上、病変部分に呼吸音の減弱、気管支呼吸音および水泡音が認められます。

病変が高度であればチアノーゼ(くちびるや爪が青黒くなる)が認められることもあります。

胸部X線検査によって、ほとんどの肺炎の診断が確定します。

頻度の高い細菌性肺炎では、細菌が感染した組織はX線が通り抜けないため、白い斑点陰影となって写真上に現れます。ウイルス性肺炎は、広範囲に広がった白く薄いしま模様または斑点が特徴です。

肺炎は肺膿瘍を引き起こすことがあり、X線写真上では液体(膿)の貯留した部分がみられます。



肺炎診断のための検査
検査項目 特徴
胸部X線検査 胸部X線写真のパターンから、大まかな病原菌を特定することができます。
陰影の性状、広がりなどを詳細に調べるためには、CT検査を行うこともあります。
血液検査 白血球、好酸球、赤沈、CRPなどから炎症が生じているかどうかを判別できます。
細菌性肺炎では白血球増加と核左方向移動が特徴です。
非定型肺炎では白血球増加がみられないこともあります。
病原菌の特定 適切な抗菌薬を用いるために、病原菌の特定を行います。
喀痰などの呼吸器由来のものと血液の検査が重要となります 。

CASE2~独居で認知症症状が進行し、金銭的な妄想が生じて等近隣の住人に怒鳴り込んでいくことが増えたため往診依頼あり。

「儲けやがって、帰れ」と叫んでみたり、「ありがとう」と感謝されたり、日によって症状は変化するが、
メマリーや向精神薬を開始して、精神的安定を図りました。
その後家族意向で施設入居の運びとなりましたが、抵抗し、帰宅願望も強く、さらに向精神薬の増量を余儀なくされました。

日中を通じて傾眠傾向が出現した為、向精神薬減量開始したました。
しかし入居1週間目で発熱39.1度、Satが80%台に低下していたため酸素吸入開始し、提携病院に入院受け入れを要請。
画像診断で誤嚥性肺炎と診断され同日入院となりました。



老人に多い肺炎・誤嚥性肺炎

食べた物が気管に入り込んでしまうと、反射的に激しく咳き込んで気管から出します。しかし気管の外に出すことができずに気管支まで入り込むと、結果的に肺炎をひき起こしてしまいます。お年寄りの場合、体力がないために、気管に異物が入っても、咳き込みが弱くて外に出すことが困難です。また、寝たきりの人なども食べたもの、唾液、胃液などを誤嚥しやすく、このため誤嚥性肺炎を発症することが多くなります。

また寝たきりだと口をあけていることも多く、口内が乾燥することも誤嚥の原因の一つです。乾燥すると必然的に口の中のものを飲み込みづらくなってしまい、誤嚥へとつながってしまうのです。咳き込む力が弱いために、むせることもできず、誤嚥していることに気づかない場合もあるので注意が必要です。また、何度も誤嚥を繰り返すうちに誤嚥に対する反射も徐々に落ちてきます。発熱もしなくなってしまうので、肺炎になっていても気づかない場合もあります。

誤嚥の状態

誤嚥の状態

誤嚥の予防

食事のときが一番誤嚥を起こしやすく、特に一口目が一番多いと言われています。食べ物を口に入れる前に、飲み込む練習(嚥下体操)をしてから口に入れるようにしましょう。また食べた後すぐに横になると、胃から食べたものが逆流してしまい、誤嚥が起こりやすくなるので、食事の後は一休みしてから横になるようにしましょう。

口の中のケアをしっかり行っていると、唾液の分泌もスムーズになり、自浄作用もあがります。寝たきりの老人などは話すことも少なく、口の中が不潔になったり渇き気味になってしまいます。口を長い間とじているだけで、口内環境はあっという間に悪くなってしまいます。口の中を清潔にすることも誤嚥を防ぐうえで大切なことです。


誤嚥の予防


誤嚥性肺炎の治療

まず流動食を含む食事をストップします。同時に点滴により、抗生剤と水分を体内に取り入れます。誤嚥性肺炎を起こした老人は、入院することによって急激に体力が落ちてしまうことがあります。これは入院することがいけないのではなく、急激な環境の変化についていけないためです。

市中肺炎と異なり、様態が急変することも多いです。呼吸不全を起こした場合は人工呼吸器をつけることもあります。治療を行って肺炎が改善しても、咳き込む力が強くなければ誤嚥は繰り返されます。再発しやすい肺炎と言えます。


窒息自己の実態

窒息


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