第九回在宅医療勉強


すぎなみ在宅診療所で第九回在宅医療勉強会が行われました。
今回の勉強会は、パーキンソン病患者様の症例検討について行いました。
今回も多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。次回の在宅医療勉強会も何卒、宜しくお願いいたします。

パーキンソン病とは?
神経が働くためのドーパミンが不足するため、神経の機能のバランスが崩れ、振戦(手先の振え)等の症状が起こります。
始めは、じっとしていると現われる手先の「静止時振戦」(しんせん=震え)、動きが少なくなる「寡動・無動」などが現われ、次第に動くことができなくなり、寝たきりになります。
重症の場合は、呼吸・嚥下(えんげ:飲み込み)会話が困難になり、経管栄養(鼻、脇腹から管で栄養をチューブで補給する)場合もあります。 知的機能は多くの場合は保たれますが、痴呆や「うつ」を併発する場合もあるようです。ただし、老年期の場合は、他の原因も多く有り得ます。
在宅医療勉強会の様子
在宅医療勉強会の様子

過去の在宅医療勉強会
第1回(抗がん剤治療・介護食のご案内) 第2回(ノロウィルスとノロウイルス抗原キット) 第3回(認知症について)
第4回(胃ろう(PEG)と関連商品のご紹介) 第5回(ターミナルケアと疼痛管理の症例検討) 第6回(褥瘡と糖尿病の症例検討)
第7回(QOL維持のための貧血治療) 第8回(寝たきりの患者様の症例検討・脱水症・熱中症) 第9回(パーキンソン病と症例検討)

在宅医療の症例検討(パーキンソン病)

CASE1~高齢で日中独居、夜間の足攣れに困っていた患者様

次女と同居の為上京。12月に体調不良で病院入院しました。入院中脳梗塞を発症(軽度左片麻痺)。
その後回復リハへ転院して自宅退院となります。病院通院後当院依頼となりました。

現症は自宅内でのADLは自立で、血液検査上は特に問題ありません。
小刻み歩行のため転倒のリスクが高く、そのため外出は基本車いすです。

認知能力が高く、全て自身でできると判断しています。小刻み歩行であり、転倒のリスクが高く夜間の下肢痛があります。

パーキンソンに関してはJ大学病医院に通院しており、内服も処方されていました。
在宅での本人の訴えを、通院ごとに情報提供し、内服調節をお願いしました。
夜間の下肢痛・下肢筋肉つれを訴えていたので、内服薬調整をお願いしたところ、貼付剤を処方されました。
当初は効果を感じないと話されていたが、用量を上げることで、効果が出ており、下肢痛は消失しました。

CASE1~メモ

ご高齢、日中独居の女性です。

知的レベルが高く、自身で全てできると判断しています。

内服コントロールは定期受診の病院で行われているが、夜間の足攣れに困っていました。

足攣れは、眠前のパッチ貼付で治まりました。



CASE2~幻視・妄想が強いレビー小体型認知症の高齢女性~地域包括を通し当院への往診依頼

現症は、上肢振戦認。歩行は小刻み歩行。血圧が150~170といつも高め。
血液検査上は低栄養・貧血状態。長谷川式18点。
比較的しっかりした幻視あり。気分変動が大きく、気に入らないことがあると突然大声で叫ぶ。
血圧が高め。手の振戦。歯車用固縮。動作緩慢。

初診時、会話好きでよく話をしました。どこで処方されたか覚えていないが
「抑肝散」が手持ちであったので内服を再開してもらいます。降圧と頻脈改善目的でテノーミン錠内服開始。
2週後:精神科も往診を開始。診察所見から「レビー小体型認知症」と診断される。
妄想に対してセロクエル50㎎内服開始しました。

2か月後:セロクエルにて幻視・妄想は軽減したので、病院にてMRI検査施行しました。
脳萎縮は著明でなく「レビー小体型」と一致する所見。アリセプト内服開始しそれとともにセロクエルを中止しました。

3か月後:アリセプト3㎎を5㎎に増量し、抑肝散内服は継続しました。血圧の変動もあり、
150~180と依然として高め、脈拍は70前後で落ち着いたため、アムロジン5mg追加しました。
上肢振戦は継続しているが軽減しており、おにぎりやバナナは自身で摂食可能です。

5か月後:血圧は130前後で安定。会話もしっかりできるようになり、笑顔が見られるようになりました。
歯磨き・洗顔も可能となったが、上肢の振戦は続くため、レボドパ100㎎を内服開始。
以後レボドパを漸増したところ、消化器症状が出現し、服薬拒否となりました。

CASE1~メモ

幻視・妄想が強いレビー小体型認知症の高齢女性です。

独居で介護サービスも受けておらず、地域包括が介入し、介護保険申請・ケアマネ選定し、後見人も申請選定しました。

アリセプト内服で幻視・妄想は消失しました。

パーキンソン症状に対しレボドパ内服を開始したが、消化器症状出現し拒薬。今後貼付剤を勧めていく予定です。



ドーパミンについて

どんなときにドーパミンニューロンが活動しているかを調べてみたところ、「行動の動機付け」に関連して活動を増すことがわかってきました。 「ドーパミン作動性神経」は快感を伝達する神経といわれています。
ですからドーパミン作動神経は主に快感を感じたときに活躍する神経であり、逆にいうとドーパミンを分泌させること=快感を得ることといえます。「よしがんばるぞ!」という意欲が出ているとき、誉められて気分が爽快のとき、合格して喜んでいるとき、絵を見て感動しているときなどにこのドーパミンが多量に分泌されます。

ドーパミン・ハイとは?

ドーパミン・ハイのタイプの人は、「当たり前のこと、日常的なもの」にスグ飽きてしまって、「変わったこと、新しいもの」を求める傾向が強いと言われています。
※ドーパミン・ハイといってもそのレベルにはいくつかの段階があります。

  • 転職が好き
  • 引越しが好き
  • 恋人を変えるのも好き等

ノーマルなドーパミン・ハイ

ドーパミン・ハイのタイプの人は、「当たり前のこと、日常的なもの」にスグ飽きてしまって、「変わったこと、新しいもの」を求める傾向が強いと言われています。

  • 動きがキビキビしているのが特徴で表情が豊か
  • 性格は外交的で、話をするのが大好き
  • 好奇心が強くて、様々な知識を得るのも大好き
  • 恋愛は、目移りして長続きしないタイプが多い

ノーマルなドーパミン・ロー

あえて冒険を犯すより安定を好む人。よく慣れたパターン化された行動が好きで、物静か。いわゆる落ち着いた人。何かを決断する時に、ともかく理由を欲しがるというクセがある、慎重な人。徳川家康タイプともいえる。 転職をするのも慎重によく考えてする人が多く、生涯をかけて何かを成し遂げる人はこのタイプが多いでしょう。

  • 興味のあることに“静かに燃える”パターンが多い
  • 自分の得意分野に関しては饒舌
  • 研究職やプログラマーなどに向いていると言われます

過剰のドーパミン

ドーパミンが逆に多くなるのも良いことではありません。幻覚が起こったり、発話や運動をコントロールできなくなって、変な恥ずかしいことを思わずやったり口走ったりしますし、不必要とわかっていながら同じ行動を反復する強迫神経症になったりします。
また、薬物依存もドーパミンに関係しています。麻薬やコカイン、アンフェタミンなどの覚醒剤やタバコなどはドーパミンを増やす効果があるため、その行動そのものが動機となって強化され、精神依存を作り出し、やめたくてもやめられなくなります。
脳から見るとタバコも覚醒剤も殆ど同じと言っていいことが明らかになっています。


パーキンソン病(ドーパミンの減少)

パーキンソン病のようにドーパミンニューロンが減少してドーパミンが少なくなると、立ち上がって歩こうと思っても、身体がすくんでしまって、どういう順番に筋肉を動かしていいかわからなくなったり、身体が震えたり、運動そのものができなくなってきます。
また、物覚えが悪くなったり、忘れっぽくなったり、万事がゆっくりになって反応が鈍くなり、集中力や注意力も失われ、無力感、無気力になったりします。次第に人と交わるのも嫌になり、社会から離れていきます。


パーキンソン

主に初老期(55~60歳前後)に発症しますが、30~40代で発症することもあります。若くに発症する場合は、遺伝性の場合が多いようです。
有病率1/2000以上、65歳以上では1/500で、軽症・未診断者を含めると国内で推定10万人近い患者が存在すると思われる、最も患者数が多い神経難病です。発症確率に男女差は無いとされています。生活習慣、職業、環境等が原因では「ない」と考えられています。

加齢とパーキンソン病

10歳年を取るごとに約10%のドーパミンニューロンが死んでいくことがわかっています。正常の20%位にドーパミンニューロンが減ってしまうと症状が出ると言われていますから、20歳のときを100%とすると100歳で私たちの殆どがパーキンソン病になる計算になります。
私たちが持つ「年寄りらしさ」のイメージを極端にすると、パーキンソン病患者さんそっくりになります。動きがスローで、物覚えが悪くなり、ちょっと前かがみになって歩き、転びやすく、震えが来たりするのはドーパミンが減少していることと無関係ではありません。
そういう意味でパーキンソン病は、一部の不幸な人の病気ではありません。私たちが元気で活動的な老後を送るためにも、パーキンソン病の原因を突き止めることは重要なことです。

鑑別診断(パーキンソン類似疾患)

  • 多系統萎縮症:線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ-ドレーガー症候群
  • 進行性核上性麻痺
  • 大脳皮質基底核変性症
  • びまん性レビー小体病
  • 脳血管性パーキンソニズム
  • 薬剤性パーキンソニズム
  • 中毒性パーキンソニズム:一酸化炭素中毒、マンガン中毒
  • 脳炎後パーキンソニズム

主症状

  • 振戦 安静時の手のふるえが特徴的、緊張するとふるえはひどくなります
  • 筋固縮 筋肉が硬くなる、筋肉を動かすと歯車のようにガクガクする
  • 無動(動作緩慢) 動作がゆっくり、表情がとぼしい、足が前に出にくい
  • 姿勢反射障害 起立・歩行時に不安定で転びやすい

他の特徴的症状

  • 起立・歩行障害:前かがみ、腕の振りが小さい、小またで加速する、すくみ足
  • 突進運動 前へ押されると止まれないで小走りになる
  • 仮面様顔貌 顔の表情がとぼしく、まばたきが少ない
  • 言語障害 声の抑揚にとぼしく、小声でぼそぼそと話す
  • 書字障害 だんだん字が小さくなる(小字症)

※筋萎縮、筋力低下、筋痛、関節痛、関節変形、しびれ感、頭痛、めまい等はパーキンソン病だけではふつう起こらないと考えられる症状なので、注意しましょう。


Yhar(ヤール)の重症度分類

公費医療の対象として「特定疾患」に認定されるには、 YharⅢ以上の状態であることが条件。

  • 1度 片方の手足に軽い症状(片手の振るえが多い)
  • 2度 両方の手足に症状が広がる。歩行はほぼ正常。日常生活、仕事はできる。
  • 3度 起立・歩行に障害。活動は制限されるが、自力での生活可能。
  • 4度 起立・歩行が非常に不安定。自力のみの生活は困難、独歩はどうにか可能。
  • 5度 起立不可能。介護がないとベッド上、車椅子での生活。

薬物療法について

L-Dopa(レボドーパ:体内でドパミンに変わる物質)内服。当初は劇的に効きますが、L-Dopaをドパミンに変える神経細胞自体が減少していくため数年で効かなくなること、早期投与が神経細胞減少を加速するという意見があることから、初めから安易には使わなくなってきています。
少なくとも日常生活に支障ないように症状を改善する程度に、まずL-Dopa以外の薬を使い、順次薬の種類と量を増やします。
薬物治療だけでなく、リハビリテーションも運動機能の維持に重要です

全ての薬は徐々に増量します

  • 維持量(長期間続ける量)は最大効果を得る量の1~2割減とされています。
  • 危険な副作用は少ないので、必ず生活を改善できる有効量まで増量します。

服薬に関して

薬の飲み方(主に服薬の時刻)は、主治医の許可があれば、自分で適当に変更してもかまいません。ただし、一日に飲む薬の総量は変えないでください。
胃酸を中和するような胃薬は、L-ドーパの吸収を悪くすることがあります。パーキンソン病治療薬を急に減量・中止しないでください。

悪性症候群

4~5 日以上パーキンソン病治療薬を中止すると筋固縮が強くなり、高熱が出て、重症化すると意識障害を起こすことがあります。
筋肉がこわれる反応(横紋筋融解症)などを伴い、治療が遅れると死亡することさえあります。薬を中止しなくても、高齢の方で感染症を合併したりや高温の環境に置かれて脱水などを生じたりすると起こることがあります。

副作用

  • 心配しなくてもよい副作用:我慢できれば我慢していただきたい副作用
  • 消化器系副作用(吐き気、嘔吐、食欲不振など)
  • 注意を要する副作用:薬の調整を検討します
  • 不随意運動(自然に体の一部が動いてします)
  • 最も注意を要する副作用:治療薬の減量が必要になります
  • 精神症状(興奮、錯乱、幻覚、妄想)

多職種連携におけるポイント

  • ケアマネージャーを中心としたスムースな連携・情報伝達
  • サービス提供者全員が情報を共有する
  • 在宅・外来受診・入院におけるスムースな連携と情報提供

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